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半径1mのしあわせ

半径1mのしあわせ

 

私が混乱した若い女の子だった時の話

 

あるときから、テーブルの上に何も置かないようになった。花とキャンドル以外。それは多分、私の祈りのようなものだった。私と私の小さな世界を守るための。

 

テーブルの上のものを全て片付ける。そうするとそこには空白ができる。空白は静謐さ、そして自由。私の家は、広くもないし、とりたてて綺麗でもない。ふつうの賃貸マンションだ。シックな家具もない。でも、何もないテーブルに花を飾りキャンドルを灯すと、そこには美しい陰影と、ムードが現れた。そしてそこは特別な空間になった。

 

今思えば、その半径1mが最初だった。そして私は少しずつ陣地を広げ、私自身を取り戻していった。落ち着いて深呼吸をしてみると気づく。私の体はいつだって、呼吸をしていたことに。自分が嫌いなんて嘘だ。だって体は毎日休みなく、息をしている。本当はずっと生きたくて生きてきた。

 

休日、ひさしぶりに魚を焼いてみて気づく。この魚が生きていたこと。そしてそれを誰かが採って、ここまで運んでくれたこと。世界を信頼しないふりをしてたけど、それだって嘘だ。ずっと頼って生きてきた。

 

誰の中にも、小さいけど確実な灯がある。それは気付かれなくても、健気にずっと炎を燃やし続けている。それに気づくことができたら、世界はもっと優しく、カラフルになる。

 

 

“とうだいもり”

くらい海をてらす光。

灯台には、灯台守がいる。

灯台守は嘘をつかない。どんなにささやかでも、ほんとうのことじゃないと、どこにも届かないから。