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人生は苦いから

人生は苦いから

 

彼女に優しくして。気にかけてるよと言って、そしてキャンディーとバラをあげて。

 

有能でグッドルッキング、だけど、傲慢で女好きなクリエイティブディレクター。マッドメンはそんな嫌な男が主人公のドラマだけど、音楽の使い方が秀逸だ。主人公の奥さんが、彼の接待に付き合った後に「あなたとチームになれて嬉しい」と健気に泣くシーンがある。そこでかかるのが、ジャックジョーンズの「lollipops and roses」だ。

 

奥さんはすごい美人で、元々はモデルをしていた。成功した夫がいて、子供は女の子と男の子の二人だ。主婦だけどメイドさんがいて、家の中でもいつも髪の毛を巻いて綺麗にしている。でも、表面上理想的な夫は、実は愛とかは分からない人で、いつも女がいるし、家族にも色々と嘘をついている。奥さんは初めはそのことを知らないんだけど、だんだんと彼に愛情がないことに気づき出し、なんとか気持ちを通わせようと努力をする。(ただ、彼女はプライドが高い人なので、そのアプローチも複雑で、このシーンも演技がかって見えなくはない。)

 

この曲は、”彼女に優しくして。気にかけてるよと言って、そしてキャンディーとバラをあげて”みたいな感じのことを歌っている。”大人のふりをしているけれど、40歳だろうと、14歳だろうと、私たちはみんな心の中は子どもだから”と。

 

小学生くらいの頃、「人生は苦いから、チョコレートは甘くしました」みたいなキャッチコピーのCMが流れていて、その寂しげな言葉が印象的だった。中学生の時の国語のドリルには”理想”の対義語に”現実”と書いてあった。そういう感傷的な諦めた世界観は、理解できない分少し魅力的で、同時に馬鹿みたいにも感じた。でも自分が大人になったら、その感じが分かってしまったような気がする。現実はいつも完璧とは限らないから、自分の中のナイーブな部分がひどく裏切られ傷ついてしまうことは少なからずある。そういう体験をいくつも経るから、大人はああいう表現に違和感がないのだ。

 

ちなみに、ドラマの中で彼女が泣いた時、夫は完全に冷めた目をしている。愛は伝わらないし、努力は報われない。でもそれはしょうがないことなのだ。彼にはいろいろな事情があり、大きな欠損を抱えていて、誰かと温かい関係を築くことができない。深く傷つき、それが癒えないままの人は、そのままその次の人を傷つけることがある。意地悪な人、怒っている人も大抵そうだ。

 

だから誰かにひどい仕打ちをされたら、それはその人の問題だと思って、自分の問題にしないこと。そうすれば、悲しい伝染を止められるから。私はそう信じて、優しい音楽をかける。花とキャンドルだけが置かれたテーブルで、いい匂いのお茶を入れて、チョコレートを食べる。それが完璧な癒しでなくとも。

 

 

“とうだいもり”

くらい海をてらす光。

灯台には、灯台守がいる。

灯台守は嘘をつかない。どんなにささやかでも、ほんとうのことじゃないと、どこにも届かないから。